Log House(B)

ゲームの感想を中心にいろいろ書きます。

『ダンガンロンパ』に愛と怒り、そして感謝を込めて。(ネタバレあり)

※ゲーム『ダンガンロンパ』シリーズ全体のネタバレを含みます

 

 プレイ前は、まさか「世の中にはこんなものがまだあったのか」と思わされることになるとは予想していなかった。「予想できない展開」だなんて風の噂で耳にしたけれど、それなりに多くの物語に触れている自負が俺にはあったので、ある程度は自分の「期待通り」「予想通り」がそこに待っているのだろうと、そう思っていた。

 しかし箱を開けてみればそれは、想像だにしない悪趣味、残酷、そして予想外のオンパレード。全体としては自分の想像通りにはほとんどならなかったし、特にオチに関しては全く自分の予想外であった。プレイ当時の俺のリアクションをまとめれば以下のようになる。

 「え、ゲームでこんなことして大丈夫なの?」「今から死ぬかもしれないキャラと仲良くさせるのやめない?死ぬ時辛いから」「このクソグマァァァ!!」「普通のミステリじゃこんな展開見られないな」「大山のぶ代女史にそんなエグい下ネタ言わすなや」「まさかこんな結末に持ち込むとは」「誰だよこんな残酷な物語作ったのは」

 「トガミビャクヤ!???」「一話目からこれかよ」「ミオダぁぁぁぁぁぁ!!」「狛枝、お前…ふざけるな…それはずるいよ…」「そんな…そんな…(頭を抱える)」

 「あ…赤松さん???」「何が『ねこふんじゃった』やねん!!!」「転子ぉぉぉぉぉぉ!!」「塩、お前だけは許さん」「王馬小吉とかいうキャラはホントによォ〜〜〜」「フィクション?…え、フィクション?本気で言ってる?」「やりやがったな制作者の野郎」

 …などなど。そんなわけで、さんざん俺は製作者の思い通りに振り回され続けた。製作者の手で磨きあげられた切れ味バツグンのシナリオに、最後まで押され続け、最後には「参りました」と敬服の礼をするしかなかった。

 いわゆる単発ゲームとして作られ、尖った作風とシナリオで絶望と希望を描いた『1』。前作の時点では想定していなかった続編だったにも関わらず、期待に完璧に答えてみせた『2』。そして前2作品を超えるため、従来のシナリオの流れに敢えて一度乗せた上で白昼堂々そこから脱却し、安直な話の流れに乗せず、二番煎じにせず、覚悟を決めて派手にコンテンツを「自爆」させた『V3』。どの作品も、制作陣がそのとき出しうるエネルギーをすべて出し切って作ったというのがひしひしと感じられて、俺は嬉しかった。

 特に『2』の5章は脱帽ものであった。シリーズの中でも随一のトリックとシナリオ、そしてなにより「ダンガンロンパにしかできない展開」が詰め込まれていて、出来が良すぎて頭を抱えた。こんなにオリジナリティにあふれているのに、その一方で伏線を綿密に用意し、描写や文脈を積み重ねて、理詰めでプレイヤーたちに絶望と言う名のオリジナリティを突きつける。

 5章プレイ後は唖然としたと同時に、すごい、なんだこれはという言葉しか出てこなかった。とんでもないゲームだ。オリジナリティに溢れすぎてる。道理で『ダンガンロンパ』の名が語り継がれる訳だ。こんなもの簡単に模倣できる訳がない。軽い気持ちで二番煎じをしようとしても、この作品の足元にも及ばないだろう。触れると火傷しそうなほどの熱量でもって、この作品は仕上げられている。

 

 しかし一方でこのゲームは、そのような独自性を持ちながらも、その独自性を支えるゲームシステムや演出などを細かく見ていくと、それが恐ろしいほどに堅実に作られていることがわかる。ダンガンロンパというオリジナリティの塊は、既出のゲームのシステムやミステリの定石などを参考にしたと思われる要素でガチガチに支えられている。

 捜査を行い、そこで得た証拠品を使って裁判で矛盾を指摘し真相を暴くのは『逆転裁判』シリーズという偉大な先輩がいるし、キャラクターとの親密度を深めることが戦闘を楽に済ませることにつながるシステムは『ペルソナ』シリーズをはじめとする数多のゲームに見られるものである。

 とんでもないオリジナリティの裏で、ダンガンロンパは実に計画的に、堅実に作られていた。このゲームはオリジナリティにフォーカスが当りがちだが、そのオリジナリティはこの堅実さに裏打ちされているからこそ強く輝いていたのだ。

 

 切れ味抜群、火傷寸前のオリジナリティと、これを支えるゲームシステムの堅実さ。その一見矛盾する2つを欲張りに両取りしたからこそ、『ダンガンロンパ』はシリーズが一応の完結を迎えて5年経った今もなお、ゲーム界の前線に立ち続けているのである。

 ダンガンロンパはさながら、「いたずら好きな影の優等生」のようである。ひねくれていて、人と同じことをしたがらない。タブー視されていることも無遠慮に口に出し、ときには人に嫌われることもある。しかしそれでいて何でも卒なくこなしてみせるので、誰も文句は言えないし、それどころか一部の人には一目置かれてすらいる、そんな子に。

 『ダンガンロンパ』は私の凝り固まったゲームへの、さらに言えばフィクションへの固定観念を、最後の最後まで木っ端微塵にぶち壊してくれた。私の安直な予想を裏切りつづけてくれた。「期待通り」には、意地でもしなかった。こんな体験は、今後生きててそうかんたんにできるものではないだろう。

 

 そして、願わくば『ダンガンロンパ』を作った彼らの新しいゲーム『超探偵事件簿レインコード』が、再び俺の期待を裏切ってくれますように。