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ゲームの感想を中心にいろいろ書きます。

『Return of the Obra Dinn』の魅力

 


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『Return of the Obra Dinn』って?短く解説

 『Return of the Obra Dinn』は、19世紀初頭の東インド会社の保険調査官となって、6か月消息を絶った後に無人で帰還した謎の商船オブラディン号に乗り込み、その船に関する謎を解くゲーム。

 船の中には白骨化した死体がいくつも転がっている。なぜ彼らは死んでしまったのか?なぜ無人にも関わらずこの船は帰還したのか?この船の中で何があったのか?プレイヤーは船員全員の生死や死因を推理し損害査定書を作成することを通して、その謎に触れることになる。

 プレイヤーは不思議な懐中時計を手に謎を解く。懐中時計を死体にかざすと、その死体の「死」の瞬間の世界を探索できる。

 例えばナイフで誰かに刺された死体があったとして、その死体に時計をかざせば、ナイフで誰かに刺されたその瞬間の世界に行ける。

 人々の動きはナイフが刺さった瞬間で止まっていて、プレイヤーはその死の情報について収集できるわけである。誰が刺したのか。刺されたのは誰か。周りにいた人は誰で、被害者が刺されたときにはどこで何をしていたか。

 情報を集め終わったら、それをもとに、乗客・乗員名簿の中から被害者と加害者の名前を探し当て、被害者の死因を埋める。「ジョンはヘンリーにナイフで刺されて死んだ」というように。

 …え?名前を当てるなんて難しそうでとてもできそうにないって?大丈夫。名前を当てるためのヒントになる情報はところどころに隠されている。名簿には人命のほかにその人の国籍と役職が書いてある。「ジョン 一等航海士 イギリス出身」というように。

 一等航海士ならそれなりに立派な服装であることが推測できるし、またイギリス出身なら、誰かの死の瞬間には別室でアフタヌーンティーを楽しんだりしているかもしれない(実際にそんな人はゲーム内に出てこないが)。そういった情報を手掛かりに人の名前を埋めていけばクリアできるわけである。

今作の魅力① 視覚による謎解き

 ミステリのゲームはたいてい『逆転裁判』『ダンガンロンパ』のようなアドベンチャーゲームである。文章を読んで物語を進めて、文章によって説明されるような証拠品や手がかりを集めて、そしてその情報をもとに文章で犯人と対峙する。ゲーム内には文章があふれ、プレイヤーはその文章から情報を得て推理するわけである、

 それに対して今作は、文章から情報を得て推理するかわりに、主に視覚から情報を得て推理するのである。「この人は兵器を扱っているからその役職の人だろう」「この人は医務室にいるから医者だろうか?」「この人はドレスを着ているから明らかに船員ではないな」というように。

 そして、その視覚から得た情報をもとに人の名前を言い当てる。答えがあっていた時には達成感もひとしおだ。文章の謎解きとは違って、自分から情報を探しに行って、推理して、何人もの人の情報が乗っている名簿の中から、一人の名前を探し当てるのだから。気分はさながら、人を一度見ただけで様々なことを推理し言い当てるシャーロック・ホームズである。

 今作はミステリゲームの本流である「文章による謎解き」とは対極の「視覚による謎解き」をさせていることが、最大の魅力なのだ。

 

今作の魅力② 絶妙な難易度調整と、達成感の両立

 「私は謎解き得意じゃないから推理ゲームなんてとても…」なんて思っている人がいたら、俺はその人の耳元でこう叫ぶだろう。「うるせえ!!現実世界で謎解きなんてする能力がない人間でも謎解きができるから、推理ゲームは面白いんじゃ!!」と。

 少し話がそれるが、よい推理ゲームは決して難しい謎解きをさせるゲームではないと俺は思っている。「こんなに難しい問題を解いた俺ってすごい?」という感覚を味わえるのが良い推理ゲームなのだ。そしてその感覚を味わえるなら、問題そのものは簡単でも難しくても別にいい。

 難しい謎解きは確かにできたとき大きな達成感を感じるけれど、結局のところ、ある程度人が解けるようにできていなければ推理ゲームとしては欠陥である。推理ゲームは推理小説とは違い、受け手が自分で解けるように誘導されてなければ意味がないのだ。

 「こんなに難しい問題を解いた俺ってすごい?」という感覚を味わえるのが良い推理ゲームである。そしてその感覚を味わえるなら、問題そのものは簡単でも難しくても別にいい。プレイヤーとしては、自分が高いハードルを越えたような感覚になれてこそ、楽しめるのだから。

 だから、「すごく難しく見えるけど、イイ感じに答えにたどり着けるように御膳立てされていて、実際には見かけより難しくない問題」を扱うのが、推理ゲームにおける理想である。

 そして、今作『Return of the Obra Dinn』は、このような「外見は難しそうだけど実際は見た目より難しくない」謎解きであり、俺が今作を高く評価するのはこれが理由である。

 今作は、正解にたどり着くまでの道筋が複数用意されている点が素晴らしい。上の例でいうと、立派な格好をしているところから一等航海士であると推測して「こいつはジョンだ!」と当ててもいいし、アフタヌーンティーを楽しんでいるところを見てイギリス出身と判断して「こいつはジョンだ!」と当ててもいい。

 今作は名前を言い当てるための手がかりがたくさん用意されていて、プレイヤーはその多くの手がかりのうちの一つか二つを発見しさえすれば大体の謎は解けるようになっている。謎を解くきっかけとなる情報が多いから、一つの情報に気づかないと解けないゲームよりは難易度が下がる。

 視覚的情報から名前を当てるということ難しさを維持しながらも、たくさんの手がかりをそこかしこに隠して、それを見つけてしまえば見かけより難しくないようにするバランス。その絶妙さにうならされた。

 

まとめ

 『Return of the Obra Dinn』は、視覚による謎解きの斬新さと、絶妙な難しさによる達成感が魅力のゲーム。少しでも興味を惹かれたら、オブラディン号に乗船されてはいかがだろうか。