Log House(B)

ゲームの感想を中心にいろいろ書きます。

唯一の救済ー『OMORI』感想

※『OMORI』のネタバレを含みます。


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 ホラーゲームをやるのは今回が初めてだった。 それなりにいろんなゲームに触れてきたし、これからも触れていきたいと考えているけど、度胸がないという単純な理由で、ホラーゲームだけは避けて通ってきた。

 しかし、そんな俺でも『OMORI』のことは無視できなかった。俺が愛してやまない『MOTHER』シリーズの影響を強く受けたゲームであると知った以上素通りしたくはなかったし、ホラーシーン以外の雰囲気はとても好みだった。知り合いから単なるホラーゲームではない、怖いだけで終わらない魅力がOMORIにはあること、俺の苦手な急に出てくる驚かし系のホラー要素は少ないということ(それでも俺はHellmariでビビリ散らかしたが)を前情報で得ていたこともあり、ニンテンドーストアの購入ボタンを押すことを決意したのである。

 おそるおそる「はじめから」を選んだ自分を待っていたのは、そんな恐怖とは無縁にも思えるような平和な世界だった。どこまでも続く白い空間や謎の赤い手に不気味さを覚えるも、白い扉の向こうには楽しいお友達が、愉快な人々が、優しい姉が住む夢の世界。テキストや世界観、雰囲気の節々に『MOTHER』の面影を感じながら、俺はそんな世界を最初は純粋に楽しんでいた。

 しかしそれもつかの間、真実へと物語は動く。ある写真を見て消えてしまったお友達。連れ戻されたホワイトスペースで、唐突に現れた「刺す」コマンド。躊躇なく刺すオモリ。目を開ける一人の青年。そして、『OMORI』はオモリではなく青年サニーの物語である、という種明かし。彼の精神世界で多くのプレイ時間を過ごすものの、究極的には現実世界での出来事とそれを原因とした引きこもり、そしてその上でのサニーの決断こそがこのゲームの主題だったのだ。 この種明かしがなかなかに衝撃的だった。というのも、俺はこのゲームを『ゆめにっき』のような精神世界のみを探索するものと思っていたからである。そしてこの現実世界と精神世界との結びつきが、『OMORI』を『OMORI』たらしめる、おおきな要素だった。

 当然、精神世界でのいろいろなものごとは、「精神世界の中では」理由付けがされていないものが多い(まあ、そりゃ頭の中の出来事だからなんでもありだ)。こちらを見つめてくる巨大な黄色い猫。壊すとなぜかアイテムが出てくるスイカ。石をペットにしているケルくん。バジルを探すはずなのに、なぜかスペースボーイ船長やらスイートハートやらハンフリーやらの話になって、結局バジルの手がかりは全く見つからない。よく考えればなぜそうなっているのかはわからないけど、でも俺は「頭の中の話だし、これ自体がゲームだからな」と割り切っていた。今思えばむしろこのゲーム自体の雰囲気がそうさせていたのであり、これこそが製作者の狙いだったのだろうが。

 しかし現実世界を訪れた瞬間、それらが急に意味を持って襲ってくる。ツリーハウスにある猫のカレンダーやスイカ割りの写真、ホビー屋さんにあるスペースボーイ船長のパネル、そしてバジルがサニーと共有する隠された真実の存在。何気なく精神世界で見てきたものが現実世界に由来していたことに気付かされる。そう、このゲームはファンタジックな世界を描いているようで、実は精神世界に裏打ちされた徹底的にリアリスティックな世界を描いていたのである。

 そしてそのように精神世界を織り込んだ現実世界を描くからこそ、主人公サニーの過去と選択というこのゲームの主題が生きる。彼の内的世界を、無意識も意識も内包された精神世界を歩くからこそ、下手にモノローグを聴かされるよりもサニーの内面を知ることができる。だから、過去を受け入れ前に進む(あるいは過去に耐えられず死を選ぶ)サニーの選択が、決意が、重みをもってプレイヤーに襲い掛かってくる。まるでプレイヤー自身がサニーになったかのように。


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 だからこそ、クライマックスの『Final Duet』には心を打たれた。そもそも、サニーはあまりにも救えない人だった、というのが俺の最初の印象であった。彼はマリを愛していたのに、マリに正しい形で向き合わなかったばかりに彼女を傷つけて、その罪からも逃げ出し、(自分も含め)誰も傷つけないために、何よりも大事なお友達に背を向けた。普通ならサニーの未来は、グッドエンド以外のエンディングのように、これからも逃げ続けるか、あるいは目を閉じ永遠の眠りにつくかの二つに一つだっただろう。

 しかしお友達の一人がドアをノックし彼の名を呼んだことをきっかけに、サニーは運よくチャンスを得て、そこからお友達の力を借りて立ち直り、そしてあの日からずっと逃げ続けていた自分自身=オモリと向き合う。攻撃して彼を打ち負かすのではなく、あの日演奏するはずだったデュエットを披露することで、彼を受け入れる。あの最後のデュエットは、彼がこの先の人生を生きていくためのたった一つの方法であり、彼にとっての唯一の救いなのだ。

 このシーンには言葉はなく終始アニメーションだが、それがいいのだ。だって、彼の悲しみも罪悪感も、逃げ出したい気持ちもどうにもならない虚無感も、言葉に出さずとも俺たちプレイヤーには伝わっているのだから。下手に語るより、彼の行為がその決意を物語る。逃げ出したくても、どうにもならないかもしれなくても、敢えて立ち向かうことが、言葉じゃなく心で理解できる。だからこそ、サニーの最後の選択は尊く素晴らしいのだ。

 『OMORI』は『MOTHER』や『ゆめにっき』を継承していながらも、それらとは似つかないテーマやストーリーでオリジナリティを見せてくれた。ゲームでこんなものが見られるなんて正直思わなかった。OMOCAT氏をはじめとする制作陣には脱帽である。ありがとう。忘れられないゲームになりました。


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